「自由に使える図書館があったらいいな」そんな、ひとりの子どもの小さなつぶやきから、民設民営の図書館「みんとしょかたる」は生まれました。ここは単に本を読む場所ではなく、子どもたちが安心して息をつき、自分らしくいられる「サードプレイス(第3の居場所)」。地域の温かい支えを受けながら、いま、フリースクールという新たな挑戦へと歩みを進めています。立ち上げの想いとこれからの展望について、代表の牛島道太さんと、マネージャー兼デザイナーの中村翔太朗(愛称:翔やん)さんに詳しくお話を伺いました。

地域と育む「ひと箱本棚」、40通りのつながりが紡ぐ温かい空間
– 民設民営の図書館とのことですが、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
牛島さん:子どもの利用は完全に無料です。大人の方には会員になっていただくことで、本の貸出だけでなく、コワーキングスペースとしても自由に活用していただけるシステムにしています。
最大の特徴は「ひと箱本棚オーナー制度」ですね。これは本棚を区画ごとに月額で貸し出すもので、スペースの使い方はオーナー様の自由。特典として、みんとしょかたるの空間を使ってイベントを開催することもできます。過去には、レジン工作や消しゴムはんこ作りのワークショップが開かれ、子どもたちが目を輝かせて楽しんでいました。
– その「ひと箱本棚オーナー制度」には、現在どれくらいの方が参加されているのですか。
牛島さん:現在は法人・個人を合わせて40名ほどの方にオーナーになっていただいています。地元・福岡県内はもちろん、遠くは東京、名古屋、神戸といった全国各地からご支援をいただいている状況です。
オーナーになったことをきっかけに、ご家族やご親戚を連れて遊びに来てくださる方も多く、そこからまた新しい地域の輪が広がっています。本棚には、ご自身の愛読書を並べる方もいれば、ご自身の活動のチラシや作品を飾って広告代わりに使われる方もいて、本当に個性豊かですね。スタート時は56スペースあったのですが、最初の2〜3ヶ月で一気に30スペースほどが埋まりました。現在は残り5スペースほど。興味のある方は、ぜひ一歩を踏み出してオーナーになっていただけたら嬉しいです。
– 実際に、月にどれくらいの方がこの場所を訪れているのでしょうか。
翔やんさん:少ない月でも60名ほど、多いときには100名以上の方にご利用いただいています。ワークショップなどのイベントが重なった月には、200名を超えることもありました。
利用方法に関して、私たちはひとつの工夫をしています。それは、学校に通えている子と、通えていない子で、利用する曜日を分けていることです。学校に行けていない子どもたちの中には、学校に通えている子と同じ空間にいるだけで、どうしても引け目や抵抗感を抱いてしまう子が少なくありません。彼らが心の底からリラックスして、安心して過ごせるようにという意図で、曜日別の運営を行っています。

左 牛島さん 右 翔やんさん
「自由に使える図書館があれば」子どもの一言が、すべてのはじまりだった
– そもそも、どのような経緯でこの民営図書館を立ち上げようと思われたのですか?
牛島さん:私はもともと、筑後市でスクールソーシャルワーカーをしていました。不登校や虐待に悩む子どもたちの面談を行っていたのですが、当時はこの地域に子どもたちの逃げ場となる「居場所」がほとんどなく、学校の図書館を借りて面談をしていたんです。
しかし、学校内で面談をするとなると、どうしても先生や他の生徒の目が気になってしまう子どもたちもいて……。その後は公民館や地域の施設を転々としていましたが、ある日、学校に行けていない本好きな女の子が、ぽつりと呟いたんです。「自由に使える図書館があったらいいな」って。
その言葉が、胸に深く刺さりました。優しい大人が見守り、子どもたちが何にも縛られずに過ごせる空間があれば、家や学校に居づらさを抱える子も安心して足を運べるのではないか。その強い想いが、みんとしょかたるの原点です。
– 子どもたちは普段、この場所でどのように過ごしているのですか?
牛島さん:ここには少し珍しい本もたくさんあるので、本が好きな子は時間を忘れて読書に没頭しています。他にも、ボードゲームやおもちゃで遊んだり、赤ちゃんがゴロゴロと動き回れるスペースも用意しています。赤ちゃんは首がすわった生後3ヶ月頃から利用できますよ。
基本的には、子どもたちが「自由」を感じられる空間であることを大切にしています。「最後はしっかり片付ける」という約束さえ守れば、飲食も自由です。現在は小さな子どもから高校生まで、幅広い世代が来てくれています。おもしろいのは、みんとしょかたるのルールは私たちが決めたのではなく、子どもたちがみんなで話し合って決め、壁に貼ってくれていること。主体性が自然と育まれているのを感じますね。
– お二人は、どのタイミングから一緒に運営されるようになったのでしょうか。
翔やんさん:僕がマネージャーとして本格的にジョインしたのは、2025年6月です。もともとコーチングの仕事をしていて、牛島さんとはお互いのスキルアップのために通っていた、とある講座の受講生同士として出会いました。
一緒にやろうと決意した決定打は、ここで「フリースクール」を立ち上げるという話を聞いたときです。「学校に行けていない子どもたちに、安心して学べる選択肢を届けたい」という牛島さんの純粋な想いに深く共感し、現在は運営やマネジメント全般を担当しています。具体的には、本棚オーナー様とのコミュニケーションや、継続的な運営を可能にするための収支面の改善など、いわゆる裏方の土台づくりですね。

勉強の前に、まずは心をフラットに。「生き抜く力」を育むフリースクール
– 新たにスタートしたフリースクールは、どのようなサービスなのですか。
翔やんさん:机に向かって教科書を開くだけの、いわゆる「お勉強の空間」にはしていません。私たちが大切にしているのは、多様な体験を通じて、これからの時代を「生き抜く力」を育むことです。
ボードゲームをしたり、絵を描いたり、何気ない日常のなかで、ここにいる「安心安全な大人」と対話を重ねる。そのコミュニケーションの積み重ねこそが、子どもたちにとって社会を少しずつ学ぶ一歩になります。学校に行けない時期がつづくと、勉強に対して強いマイナスイメージをもってしまう子も多いので、まずは傷ついた心を癒やし、意欲をフラットな状態まで回復させることを最優先にしています。
もちろん、「これが勉強したい」「教えてほしい」という前向きな気持ちが芽生えたときには、さまざまな得意分野を持つ講師陣がサポートしますので、安心して頼っていただきたいです。
そして、ここで過ごすうちに「もっと本格的に勉強したい」「学校に戻ってみたい」という気持ちが生まれたなら、復帰の時期や登校の仕方を子どもと一緒に考えます。どこまでも子どもたちの心に寄り添い、可能性という名の「選択肢を増やす場所」でありたいと思っています。
– 立ち上げからこれまで、運営面で苦労されたことも多かったのではないでしょうか。
牛島さん:そうですね、以前から資金繰りの問題はつねに大きくて、今でも翔やんと毎日のように話し合いを重ねています。「子どもたちからは、絶対にお金をいただかない」というのは大前提として決めていたので、じゃあどうやって運営費を捻出していくか、という壁に最初からぶつかりました。
翔やんさん:僕はビジネスの視点から、子どもに関わる領域以外でのマネタイズも含めていろいろと提案するのですが、牛島さんは子どもが真ん中にいない事業だと、どうしてもモチベーションが上がらないみたいで(笑)。
何度も何度も膝を突き合わせて話し合い、現在は平日の大人の利用をコワーキングスペースとしてサブスクリプション化するかたちに落ち着きました。そして今、ようやく新たな柱としてフリースクール事業が本格始動しようとしています。今後は、子ども向けのアプローチだけでなく、保護者の方々への支援も視野に入れています。フリースクールに通う子どもたちが、親御さんと同じ空間で適切な関わり方を学べたり、地域の方々や企業が不登校や新しい教育への理解を深めたりできる環境をつくっていきたいです。ただ、規模が大きくなると僕たちだけでは限界があるので、今後は行政や企業とも手を取り合っていければと考えています。

何度でも立ち上がる。筑後から全国へ広げる「地域協力型」の未来予想図
– これからの「みんとしょかたる」が目指す、未来の展望を教えてください。
翔やんさん:今後は、企業協賛の輪を広げていくことに力を入れたいと考えています。口コミで自然と広がるのが理想ではありますが、想いを受け止めてもらうためには、自分たちから泥臭く発信しにいくことも同じくらい大切です。
例えば福岡市内に目を向けると、フリースクールという選択肢はかなり一般的になりつつあります。まずはそうした都市部の先進的な企業様から協賛をいただき、その動きをフックにして、筑後地域の企業様にも「自分たちも子どもの未来のために何かできるのでは」と感化されていくような流れを作りたいです。
企業や地域が一体となれば、社会全体で子どもの未来を育むポジティブな空気が生まれるはず。だからこそ、筑後市という枠にとどまらず、外の地域へも積極的に僕たちが足を運んで、牛島さんの熱い想いを正面から受け止めてくれる仲間を増やしていきたいです。「足を動かしてなんぼ」の精神で突き進みます(笑)。
– 最後に、お二人が理想とするフリースクールの姿とは?
牛島さん:全国にあるさまざまなフリースクールが、お互いに手を取り合い、ゆるやかにつがれる世界が理想です。フリースクールには、それぞれの場所ごとに違った特色があります。「この子の個性なら、あっちのスクールの方が輝けるかもしれない」といった情報交換が当たり前にできるようになれば、子どもたちにとっても、よりぴったりな居場所が見つかりやすくなると思うんです。
また、フリースクール業界は全国的に見ても、ビジネスモデル(収益面)としての成功事例がまだ少ないのが現状です。だからこそ、私たちがしっかりと収益を上げながら子どもたちを支える「持続可能なモデルケース」となり、業界を引っ張っていける存在になりたい。少しずつ裾野を広げながら、まずは筑後地域、そして福岡県内へと広げ、真の意味での「地域協力型フリースクール」を実現させていきます。
【取材対象者情報】
| 業種 | 教育 |
| 事業所名 | みんとしょかたる |
| 担当者名 | 牛島道太・中村 翔太朗(翔やん) |
| 所在地 | 〒833-0031 福岡県筑後市山ノ井138-23 MEIJIKAN1階 |
| 連絡先 | 050-3000-5530 |
| HP | https://www.mintosyokataru.org/ |
| SNS | https://www.instagram.com/mintosyokataru/ |






