今回の大阪・関西万博への出張が決まったのは、出発日のわずか3日前のこと。準備する時間が足りなさすぎる……でも、出かけた意味は十二分にありました。
真夏の新幹線に乗って、未来を見にいく
朝7時の新幹線で、東京から大阪へ。
ホームには、ビジネスパーソンに混じって、これからレジャーに出かけるであろう家族連れの姿もちらほら。一方、私はというとノートパソコンや資料に加えて、日焼け止めや手持ち扇風機といった暑さ対策グッズまでぎゅうぎゅうに詰め込んだリュックを背負い、その人混みの中を歩いていました。
仕事です。ええ、あくまで仕事なんです。
でも心のどこか、「ちょっと楽しいことになるかも」なんてわくわくした気持ちも連れていっていました。
今回訪れた大阪・関西万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。
建築やパビリオンの派手さについ目がいきがちですが、辺りをただよう木の香りや空を歩くスカイウォーク、そこに集う人々の穏やかな表情を見ていて、「未来ってこういう“空気”なのかもしれない」と、じんわりと実感することができました。

木の香りのする未来
会場に着いてまず感じたのは、わぁ、空が広い……そして、暑っつい!
本当は、入り口に立っていたミャクミャクの像と同じポーズで記念写真を撮りたかったのに、あまりの暑さと慌ただしさで、気づけば流れるように会場の中へ。
未来にたどり着く前に、まず現実の暑さにやられてしまいました。
そんな私を迎えてくれたのが、大屋根リングの静かな木陰。ふわっと木の香りがして、なんだか森に迷い込んだような不思議な感覚。
未来ってもっと無機質なものかと思っていたけれど、ちゃんと“ぬくもり”もあるんですね。

予約ゼロで行った人のリアルな大阪・関西万博の歩き方
今回の大阪・関西万博は、ノープラン&ノー予約……見事にどのパビリオンも「満席です」状態でした。ふらっと行って目的のパビリオンに入るのは、ほぼ不可能です。本当に!
当日受付(予約なし)をしているパビリオンもあるにはあるのですが、そこには長蛇の列が……。これから行かれる方には、全力で「事前予約」することをおすすめします。

「全然残念じゃないですよ、仕事ですし!!」と言い聞かせつつ、各国のパビリオンや会場内建築物の外観をひたすら堪能する私。国そのものがデザインされている」とでも言うような、それぞれの個性が建築にあらわれていて、眺めているだけでも十分に楽しめました。
たとえばこちらのカナダパビリオン。
カナダの自然が生み出す氷の形からインスピレーションを得たデザインだそうで、ゴツゴツとした氷の塊のような外観は、まるで大自然そのものがそこに現れたかのようです。

印象的だったのが、筑波大学の准教授で、メディアアーティストの落合陽一さんのパビリオン「null2(ヌルヌル)」です。
会場に忽然と現れる大きなミラー膜の建物、「間」のようなものが絶妙に組み合わされていて、そこだけ時空がずれているような空間でした。
当日枠のネット予約にも挑戦してみましたが……みごとに惨敗。
落合さんの人気は伊達じゃありませんでしたね。
空を歩く人と、未来のピアノ

会場を散策したあとは大屋根リングの上、スカイウォークを歩いてみることに。会場全体が見渡せてとても気持ちが良かったです!ただ、遠くの方に雨柱が見えていて、「お願い、雨雲よこっち来ないで」と祈りながらの空中さんぽでした。

もうひとつ、思いがけずラッキーなできごとがありました。それは、ふらりと立ち寄ったシャインハット(Shining Hat)前でハンガリーのピアニスト、ハヴァシ・バラージュ(Balázs Havasi)さんのライブ入場券をゲットできたことです。
彼はスタッズ付きの革ジャンにジーンズという出で立ちで、グランドピアノを弾きこなしていました。クラシックをベースにしたサウンドとプロジェクションマッピングの融合は圧巻。「未来って、こういうことか」と静かに感動させられてしまいました。
“未来”って遠くにあると思っていた

日が暮れてくるにつれて、ふわりと光に包まれる会場。昼間の熱気とは違い、穏やかで、静けさのある時間。
計画も立てず、ハヴァシ・バラージュ(Balázs Havasi)さんのライブを見られたのも偶然、歩いてきた道もほぼ勘だより。
それでも、心に残る1日でした。
どれだけ未来的なものに囲まれていても、私の心が動いたのは、「いま、この瞬間」。広い空、木の香り、ピアノの余韻…。五感にやさしく触れる一つひとつが、これからも手放したくない感覚や、未来へつないでいきたい想いを、そっと呼び覚ましてくれるようでした。
「いま、何を大切にしたいか」に気づくこと。それが、未来をデザインする最初の一歩なのかもしれません。
今回、“未来の縮図”のようなこの場に来られたことが、思いがけず自分の今を見つめるきっかけにもなりました。またいつか、どこかで、もう少し余白をもって、未来と向き合える日が来ることを楽しみにしています。
筆者:天野綾美





