福岡県八女市黒木地区といえば、“黒木の大藤”と言われるほど有名な藤があるのをご存知だろうか。ときは南北朝時代、北朝⽅である九州探題の今川了俊の攻撃から逃れるため、⼋代(現在の熊本県⼋代市)の⾼⽥御所から⽮部(現在の⼋⼥市⽮部村)の⾼屋城に移られた後征西将軍良成親王が1395年にお手植えされたとされる藤である。そのような由緒正しい藤が毎年、見ごろを迎える4月中旬から終わりごろにかけ“大藤まつり”なるものが催されているという情報を得て、黒木地区におじゃましてきた。

駅跡イベント広場(旧国鉄黒木駅跡)から“黒木の大藤”までの道すがら、まず目についたのがあちらこちらで店前が藤まつり仕様になっていること。その様子から地域全体でこのまつりを楽しみにし、盛り上げようとする気持ちが伺える。

さて。そうこうしているうちまず鼻先に感じてきたのが、ほのかに甘く爽やかな藤のかおり。余談であるが、実は藤から直接香料を抽出することはとても難しいという。世間にある藤のかおりの香水や芳香剤の大半がかおりを再現したものなのだと知ると、本来の藤のかおりを楽しめるというのは何と贅沢なことであろうか。

いよいよもって“黒木の大藤”とご対面。まつりの会場である素盞嗚神社(すさのおじんじゃ)にはおよそ20本の藤が植えられており、3,000平方メートルもの広大な藤棚が広がっている。これは確かに“大藤”と呼ばれるに相応しい規模だ。

なかでも目をひくのが国道442号線側から鳥居をくぐり、社殿までの参道の左側にあるひときわ大きな藤。幾多の戦、大火に見舞わられながらも630年以上にわたり残るその姿に、地域の人々がいかにこの藤に誇りをもち、大切に守り、後世へと代々伝えてきたのであろうことが見て取れる。

本年(2025年)の大藤まつりは4月11日から27日まで。おじゃました21日時点で七分咲きであったので、今からがまさに見ごろ。開花に合わせ午後7時以降(9時まで)はライトアップもされるとのことで、夜は大藤の幻想的な雰囲気を楽しめる。

また、素盞嗚神社の周辺、旧往還道(旧豊後別路)沿いには黒木地区の伝統的な町並みが広がっており、まだまだ見どころが満載なもよう。今後も、折を見てはこの地区に足を運びその歴史や文化をさらに深掘りしていきたいものだ。
筆者:堀本 一徳(FCP 編集長)
撮影:スタジオタカノ





