住宅・土地統計調査によると、空き家の総数はここ20年で約1.5倍に増加。(出典元:国土交通省「令和4年 空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」)とくに地方ではその傾向が顕著で昨今、空き家をどう活用するのかが課題視されている。このような状況のなか、空き家の活用法として注目を集めているのが農業だ。今回は、関西から九州に移住し、福岡県筑後市で空き家の一室を活用した国産生キクラゲを栽培、販売するHALEAKARA FARMの大西さんに、キクラゲ栽培をはじめた経緯や今後の展望について伺った。

オーナー 大西さん
群発性頭痛に悩まされ、名医に助けを求めて九州へ
– 農業の道に進むことになったのはどうしてですか?
大西さん:持病の頭痛がきっかけでした。私は学生のころから頭痛に悩まされていまして、それこそひどいときには一日中動けなくなるほどだったのです。かといって当時の私はこの頭痛が一体何なのか、どのように付き合っていけばいいのかなど知識がまだなくて……。一時は地元の大阪で福祉関係の職についていたことがあるのですが、頭痛が原因で職場に迷惑をかけることがたびたびあり困っていました。
そんなとき、病院で群発性頭痛と診断され、先生が「福岡県に群発性頭痛の名医がいるから行ってみてはどうか」と勧めてくださったのです。そこで、まずは母の実家がある宮崎県に移住することにしました。
– では、宮崎県に移住されてからキクラゲ栽培をはじめられたと?
大西さん:実は、宮崎県ではキクラゲではなく、マンゴー農園で働いていました。さすがは特産ということなのかマンゴー農園の求人がいっぱいありまして。(笑)農業なら前職のようなことにはならないのでは、と思い切って飛び込んでみたわけです。ただ結局、マンゴー農園で働いていたときも群発性頭痛に悩まされました。薬を飲みながら頑張ってはみたものの、体調が追いつかなくて休むことが多くなっていき、農園を辞めざるをえなくなったんです。そこで、以前から母が暮らしていたここ筑後市に引っ越すことにしました。今から2年前、29歳のときです。
そこからがまた大変で、筑後市に引っ越してから1年半ほどはひどい群発期に悩まされ、ほとんど動くことができませんでした。ただ、ここに引っ越してからは名医の先生のもとに通いやすくなり、ちょっとずつですが症状は改善してきています。そして、先生から「目にもいいし、農業だったらいいのではないですか」と勧められたのもあり、また農業をしてみようかなと思うようになりました。

自宅の空き部屋から、国産生キクラゲ栽培の道に
– そこでどうしてマンゴーではなく、キクラゲを栽培することに?
大西さん:周りからもマンゴーを勧められはしていたのですが、マンゴーはとにかく設備投資とランニングコストが高いんです。軌道に乗るまでが大変ですし、私にはこの頭痛がありますので、大きな借金を抱えてまで働くという選択肢は考えられませんでした。そこでマンゴーで培われた知識を生かして、まずは果樹から育てみることにしたんです。
ただ、症状が改善されてきたとはいえまだ群発期にはいることはあるので、体に負担のかかりづらい作物はないかと探したところ、キクラゲに出会いました。父方の親戚にキクラゲ農家の方がいまして、遊びに行ったときに栽培環境を見せていただき、今の自宅を思い浮かべてこれなら余っている部屋がまるまる使えるのではないかと。それに、インターネットで古民家を改装してキクラゲ農家をされている方がいることを知りまして、私でもできるのではないかと思いやってみることにしました。
– 古民家を改装すればコストもそれほどかからないのですか?
大西さん:そうですね。ここはもともと祖父が暮らしていた家で今、キクラゲを栽培している場所は台所でした。キクラゲ栽培には多くの水を使いますから、排水溝のある台所はちょうどいい環境だったわけです。あとは湿度や温度を保てるよう部屋の周りをシートで覆って、棚を用意すればひとまず環境を整えられます。棚から何からできるだけDIYしましたから、ずいぶん初期費用を抑えることができました。
– 普段、キクラゲはどちらで販売されているのですか?
筑後市の川の駅・船小屋恋ぼたるや瀬高市の道の駅・産直市場よってってなどに置かせてもらっていて、ありがたいことに出荷したらその日の午前中には売り切れるほどご好評いただいています。多少形がいびつでも、大きさが不ぞろいでも対面販売なら手にとっていただけますし、何よりお客さまの声が届くので楽しいですね。

病と闘いながらも、キクラゲで見えてきた新たな目標
– キクラゲ農家としての今後の展望を教えてください。
大西さん:棚などの栽培環境はほぼDIYで整えてきた状態ですので、資金がたまってきたら丈夫なアルミの棚にしたいです。外にはまだ土地がありますから、将来的にはハウスを建てて規模を大きくしたいとも思っています。
また、生産だけではく加工もやっていきたいです。乾燥キクラゲはすでにやっているので、粉末にしたり、カットしたり、味噌和えやピクルスなども考えています。それこそ前職が福祉関係だったこともあって、こうした加工面ではハンデキャップのある方々とコラボできたらいいですね。今年(2024年)4月から栽培をスタートしたばかりですが、今後も自分のペースで取り組み、国産生キクラゲのおいしさを、魅力を広めていけたらいいなと思っています。
【取材対象者情報】
| 業種 | 農業 |
| 事業所名 | HALEAKARA FARM |
| 担当者名 | 大西 |
| 所在地 | 福岡県筑後市 |
| 連絡先 | 090-7752-2363 |
| サイト | https://jp.mercari.com/user/profile/771763416?utm_medium=share&utm_source=ios |
| SNS | https://www.instagram.com/haleakara_0730/ |







