フィンガーライム、という果物をご存知だろうか。一般的に日本のスーパーでは見かけることがないこの果物は、オーストラリア原産の希少な柑橘類である。1個わずか10〜20g。人の指のような形からフィンガーライムと呼ばれており、実の中に粒状の果肉がびっしりと詰まっている。特徴的な見た目とプチプチとした食感から森のキャビア、キャビアライムとも呼ばれており、古くからオーストラリアの先住民族アボリジニが食していたという。近年は世界的に知名度を上げ、徐々に日本でも生産されるようになってきた。今回はこの珍しい果物フィンガーライムに魅了された古賀さんと野上さんのおふたりにその魅力と難しさ、今後の展望を伺った。

フィンガーライムとの出会い
– 古賀さんが農業にたずさわるきっかけを教えてください。
古賀さん:普段は事務職の仕事をしています。2020年に農業をしている元義両親がレンタル畑の事業をはじめまして、畑を借りる初心者の方向けに農業を教えることになったのを機に、私も一緒に農業を学ぶことにしました。それから、農業の奥深さにハマりまして、その魅力を自分なりに伝えていきたいと、自分でも事業をはじめたという経緯です。
当初は青パパイヤの生産販売からスタートしまして昨年、野上農園の野上さんとの出会いをきっかけにフィンガーライムの販売にも関わるようになりました。ちなみに、独立3年目を迎えた今年は、アップルマンゴー農家の方との出会いがあり、短期間でしたがマンゴーの販売もしたんですよ。青パパイヤにフィンガーライム、アップルマンゴーと、このラインナップからわかるかと思いますが、私の事業では”南国の食べ物“をテーマにしています。
– フィンガーライムに出会ったときのことを教えてください。
野上さん:私は普段、ナス農家をしているのですが、珍しいものも作ってみたいとの思いから、いろいろと調べているなかでフィンガーライムに出会いました。今から6年前のことです。当時は実が1個1,000円くらいとかなりの高額で、苗木を1本購入したところから栽培がはじまり、少しずつ本数を増やしてきました。
古賀さん:私はインターネットでたまたまフィンガーライムについて知りまして、すぐに果実を取り寄せました。はじめて食べたときのあのプチプチとはじける食感に感動したのを今でも覚えています。それからフィンガーライムを育ててたくさん食べたい!多くの方たちに味わってもらいたい!と思うようになっていったわけです。

(左)古賀さん (右)野上さん
数多の失敗の上に今がある
– 取り組みはじめて大変だったことを教えてください。
古賀さん:はじめはフィンガーライムの苗をインターネットで購入していましたが、果実だけでなく苗も高価で、増やすことにとても苦戦しました。そして、自分なりに工夫しながら栽培してみたのですが、成功率はわずか3割程度で……。近くに詳しい方がいないかと調べていくうちに、たまたまSNSで野上さんと知り合うことができまして、野上さんが栽培したものを、私が販売するというかたちになっていきました。
野上さん:フィンガーライムの品種には実がなるものと、実がなりにくいものがあります。はじめはそういったこともわからず、実のなりにくい品種も一生懸命育てていました。(笑)いろいろな品種を育てながら、これはよく実がなる、ならない。味についても、これは美味しい、にがいなどとひとつずつ自分で確かめてきました。
– 南国の果物が八女で育つことに驚きました。
野上さん:そうなんです。コツはいるのですが、意外と八女の気候でも育ってくれます。南国の果物、と聞くと寒さに弱いと思われるかもしれませんが、フィンガーライムの場合はある程度育ってきたら多少の寒さは問題ありません。むしろ暑さに弱いくらいです。近年の猛暑で実が柔らかくなりすぎたり、皮がやけどしてしまったりしましたので、とくに暑さに気をつかってあげる必要があります。
古賀さん:収穫の時期は7月中旬から11月末くらいまでとある程度の余裕があるのですが、収穫後の日もちが10日程度と短いのが難しいところです。そこで、今は早く実がなる品種と遅い品種を組み合わせて、新鮮なものを長い期間出荷できるよう工夫しています。野上さんと出会えたとはいえ今も手探りで、失敗と成功を繰り返しながらなんとかつづけているところです。

ほかでは味わえない感動を全国へ
– どのようなところに販売しているのですか
古賀さん:全国各地の飲食店やホテルなどを中心に販売していまして、都内の某有名ホテルではコース料理に使っていただいています。また、別の販売先でははじめ100グラムの小口注文だったものが、今ではキロ単位で注文いただけけるまでになりました。
– 食べた方たちの反響はどうですか
古賀さん:はじめて食べるとプチっと口の中ではじける食感と爽やかな香りにとにかくびっくりされる方が多いですね。感動されてそのまま虜になる方もいて、大変好評いただいています。
品種によって果肉の色が透明や緑、ピンク、黄色などと多彩で、また味もそれぞれ違うので、料理人のアイデアしだいでいろいろな使い方ができるのが魅力のひとつです。タルタルソースに入れたり、シャンパンやお酒にちょっと浮かべたり、ヨーグルトやアイスクリームのような甘いものにも意外と合いますよ。

フィンガーライムを宇宙まで
– 最後にこれからの展望を教えてください
古賀さん:実は今、野上さんから苗の一部をゆずっていただいて、あらためて自分で栽培に挑戦しているところです。これからもっと研究していき見た目も美しく、品質の高いものを安定して収穫できるようにしていきたいと思っています。
私の夢は宇宙食を作ることです。フィンガーライムは見た目の美しさや味だけでなく、栄養価も高く、ビタミンCはみかんの3倍、カリウム、食物繊維も豊富に含まれています。宇宙食に活用できれば、きっと飛行士の方たちに喜ばれることでしょう。ただ、宇宙には生の果物や冷凍したものは持ちこめないため、常温で長期保存できるような加工をしないといけません。まだ課題は山積みで、先の長い夢ではありますが、いつか実現したいですね。
【取材対象者情報】
| 業種 | 農業 |
| 事業所名 | 古賀萬壽果園 |
| 担当者名 | 古賀 隆一 |
| 所在地 | 〒834-0111 福岡県八女郡広川町日吉1164-6 |
| HP | https://www.fukuoka-papaya.com/ |





