国土の3分の2を森林が占める、世界有数の森林国・日本。木材生産をはじめ、山地災害の防止や二酸化炭素の吸収などさまざまな役割をもつ森林は、今後も適正な整備が欠かせない日本の大切な資源だ。その森林を時代ごとの課題と向き合いながら脈々と守りつづけてきたのが林業家である。今回は、福岡県八女市で環境保全を考えた山林経営を実施する有限会社諸冨林産興業の諸冨さんに林業の現状と今後への期待について伺った。

代表取締役 諸冨さん
50年かけ森林を育てるところから林業ははじまる
– 御社の主な業務、製品を教えていただけますか?
諸冨さん:私たちは植林から伐採、製材まで一貫しておこなっている林業会社です。葉枯し乾燥や新月伐採などによる天然乾燥材、バイオマスボイラーによる人工乾燥材、神社仏閣用の特殊材、畜産用ののこ屑、燃料チップなどを生産しております。
– 山から木を切り出すとなるとそうとう大変ですよね?
諸冨さん:そうですね。それこそ高性能林業機械による搬出がはじまる、25年くらい前までは馬でも搬出していました。機械を使うようになってからだいぶラクにはなりましたが、ここ八女地域は急峻な地形でどうしても機械が入らないところでは、まだ人の手やワイヤーによる架線集材が必要なので大変です。ちなみに、今日は有明海に出荷する10m~12mの丸太を積込にいっているのですけれども、普段は主に3mや4m材にしか採材していません。
– どうして普段は若い木しか切らないのですか?
諸冨さん:3m、4mの小径木はさまざまな用途に使えて、高値で取引されるからです。それに家一軒だけでも3mの柱が100本ほどと本数も出ますし。和室があれば床の間に広い板が必要となるのですが、今は和室のない家が珍しくありません。昔は大きくて立派な木ほど喜ばれていたのですけれども、時代の流れですかね。今では大きな木は使っても一枚板のテーブルくらいですよ。
– でも、若い木ばかり需要があると、供給が追いつかないのでは?
諸冨さん:製材所は小径木が集まらなくて大変でしょうね。当社も変わらないですよ。以前は主伐(上層木の全面的な伐採)で広い面積は切っていませんでした。それが高性能の林業機械が導入されるようになるとじゃんじゃん切るようになって、地域によってはもう切れるところが少ない状態です。だから私たちも木材共販所という、いわゆる木の市場で買い付けることがあります。ほとんどの製材所はすべて市場での買い付けで対応するのが現状ですね。
– 木って苗木を植えてもすぐに育つわけではないですよね?
諸冨さん:50年ほどかかります。それに苗木は植えると、手入れに10年ぐらいかかるわけです。私たちのところでは森林総合研究所森林整備センターの造林資金で苗木を植えて、「何十年後に山分けしましょう」みたいな分収造林事業も活用しています。ただ、補助があるといっても、それに頼ってばっかりではいけません。そこで、私たちは製材所や杭木工場を併設したり、産廃の収集運搬や中間処分をしたりとさまざま事業を展開しています。

補助金を足がかりに次へと挑戦して林業を盛り上げる
– 2024年度から森林環境税が導入されて、その影響はどうですか?
諸冨さん:八女市は森林面積が広いので、その影響はものすごく大きいと思います。これまでも造林補助はありまして、そこに森林環境税の分が上乗せされてくれるわけです。あと私たちは認定事業体に指定されていますので、雇用面では社会保険料や退職金などの補助も加算してくれますから、行政にはかなり応援してもらっています。
– 補助金があると、次への挑戦がしやすくなりますよね。
諸冨さん:そうですね。ただ、補助金にひたってしまうのはちょっとよくないです。そもそも補助金というのはある程度の規模でやっているところが、「補助金でさらに増産できますよ」みたいな計画で申請するものなので、前向きなことに使っていかないと。私の代で何かを大きく変えることは難しいかもしれませんが、息子たちの代では盛り上げていってくれることでしょう。
– 最近は若い林業家が独立している事例が増えていますよね。
諸冨さん:今、息子たちが八女市で脱炭素の取り組みに関わっています。新たに一般社団法人を立ち上げて、そこで八女市を先行地域としてJ-クレジット制度に取り組もうと申請しているところです。いろいろと制約があるので簡単にはいかないようですけれども、諦めずに頑張ってくれていますよ。

自然に生かされてきたからこそ環境への配慮を忘れない
– 林業家として脱炭素の動きはやはり意識されますか?
諸冨さん:林業と環境問題は切っても切れない関係です。例えば、間伐すると木の本数は減るので、一時的に二酸化炭素の吸収量は減りますよね。でも、隣接木同士の距離は広くなるから、残した木はすごく大きくなる。それだけ1本あたりの二酸化炭素の吸収量は増えるので、結果的に間伐した方が環境にはいいというわけです。
– では、どこの林業家も間伐には積極的なのでしょうか?
諸冨さん:賃金が安かったころはどこもどんどん間伐していました。今は人件費が高いので、ただ間伐するだけではコストが合わなくなっています。それでも、私たちは間伐をつづけている。若い木の需要が高まっていて売れるからというのはありますけれど、脱酸素とか環境保全のためでもあります。

変化する時代だからこそ前向きな人材が欠かせない
– 諸冨さんが考える林業の未来について教えてください。
諸冨さん:私は5代目ですから、もうつづけるしかない!みたいな。(笑)林業を次の世代につなげるために、いろいろなことに挑戦しているわけです。息子たちも同じだと思います。最近は製薬会社が薬を製造するのに必要とかで、スギ花粉を採取して出荷もしています。ただ、これは林業だけの話ではなくて、ほかの産業も同じように状況は変化しつづけていて、時代ごとの課題に向き合っていくしかありません。
– 林業が盛り上がるには何が必要だと思いますか?
諸冨さん:やはり人材です。国も支援を充実させてくれています。代表的なのは、緑の雇用。未経験の方でも林業で働けるよう賃金保証しながらいろいろな資格を取れるという事業です。私たちのところはいくらでも仕事がある環境なので、本当に山が好きで、「現場で学びたい!」という人でしたらぜひ一緒に林業経営に参加してほしいと思っています。
【取材対象者情報】
| 業種 | 林業 |
| 事業所名 | 有限会社諸冨林産興業 |
| 担当者名 | 諸冨 一文 |
| 所在地 | 〒834-0031 福岡県八女市本町1丁目281-4 |
| 連絡先 | 0943-22-5852 |
| サイト | http://www.morotomi.jp |







