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動物福祉

行き場のない地域の猫たちに心休まる終の住処を|保護猫ボランティアにゃんこ邸|福岡県八女市

日本の65歳以上の人口は3,625万人と過去最多(出典元:総務省統計局「統計トピックスNo142」)。そのうち単身者の猫飼育率を見ると男性は60〜70代が6%、女性は40〜50代が9.7%と、とくに飼育率が高い傾向にある。(出典元:一般社団法人ペットフード協会「令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査」)このように高齢者にとってペットは心の支えとなっている一方、飼い主の健康や経済状態の変化により飼育が困難になることは多く、高齢者の抱える問題のひとつだ。今回は、福祉の仕事を通じて高齢者が抱えるペット飼育の問題に直面したことをきっかけに、自らのできる範囲でこつこつと、行き場のない地域の猫たちの命を救いつづけている保護猫ボランティアにゃんこ邸の小森さんに、これまでの活動の歩みと今後の展望を伺った。

保護活動のはじまりは捨てられたトイプードルから

– 保護猫活動をはじめたきっかけを教えてください

小森さん:8年前に、山の中で犬を拾ったのがきっかけです。当時から私は福祉の仕事をしていまして、その日はデイサービスの送迎で山道を通っていました。すると朝はいなかったのに、夕方同じ道を通ったとき、ガードレールの所にぽつんといる犬を見つけたんです。すぐ側が崖になっていて、思わず保護しました。足がちょっと変形して麻痺もあるトイプードルです。それから半年後、職場近くで猫を3匹保護したのを機に、本格的に保護猫活動をスタートしました。

– 活動をはじめられたころとくに大変だったことは何ですか?

小森さん:福祉の仕事をしていると、高齢者と猫の問題に出会うことがよくあります。高齢者から「子猫が生まれたからどうしよう」などの相談を受けるたびに、子猫を引き取っては里親探しをしていました。そうしてはじめは個人で活動していたのですが、あるとき近くに保護猫団体があることを知り、一時はその団体に所属していました。

しかし、仕事のかね合いもあって、自分のペースで活動できるよう団体から離れたんです。当時、その保護猫団体から猫エイズや白血病などの病気がある、いわゆるキャリアの子を含めた10数匹を預かっていまして、猫たちの環境を変えるのはかわいそうで、団体を離れる際にそのまま全頭引き取らせてもらいました。

– 団体から離れてあらためて個人での活動は大変だったのでは?

小森さん:団体を離れたことで自分のペースで活動できるようになったのはよかったです。ただ、にゃんこ邸を立ち上げたばかりのころはどこからも支援がなく、なにをするにも自己資金でまかなう必要があり大変だったのを覚えています。今でも活動資金の多くは自己資金ですが……。今でこそ譲渡会などで里親さんたちからご寄付をいただくことが増えてきたのですが、大きな保護猫団体に比べるとどうしても活動資金を集めるのは難しいものです。

想いを共有する個人のボランティアさんとつなぐ命

– 普段はどのようにして保護猫活動をされていますか?

小森さん:日々、個人のボランティアさんたちに手伝ってもらいながら活動しています。ただ、ボランティアさんといっても普段はそれぞれでTNR(TRAP=つかまえる/NEUTER=不妊手術をする/RETURN=元の場所に戻す、の頭文字をとったもの)などの活動をしていまして、必要なときにお互い連携して助け合っているような状況です。例えば、ボランティアさんが捕獲した猫にケガや病気が見つかったり、人を追って車道に出てきてしまうほど人慣れしていて危なかったりする子は、シェルターに空きがあればですがこちらで引き受けるようにしています。空きがなくてもボランティアさんが困っていたら結局、引き受けてしまうんですけどね。(笑)

現在、自宅では犬と猫、鶏を飼っていまして、加えてこのシェルターには40数匹の保護猫たちがいて朝は毎日、私ひとりでお世話してから仕事に出かけているので大変です。夕方のお世話にはほぼ毎日、ボランティアさんが手伝いに来てくれているのでとても助かっています。

– 個人でこの規模のシェルターがあるのはめずらしいですよね。

小森さん:そうですね。この家は夫の祖父母の家なんです。しっかりとした日本家屋で、ハウス(家)というよりも、邸宅という感じがするので、にゃんこ邸という団体名にしました。もし自宅だけだったとしたらとてもではないですが、これほど多くの猫たちを保護するのは難しかったでしょう。ですから、保護猫活動をするうえで、この家があって私は恵まれているほうだと感じています。シェルターではキャリアの子の部屋、譲渡対象の子の部屋など猫たちの状況に応じて部屋を仕切ってはいますが、基本的に部屋の中では猫たちは自由に動きまわれる環境です。

高齢者とペットという高齢化社会の隠れた問題

– 活動していてとくに感じる課題はありますか?

小森さん:多頭飼育崩壊をはじめ、仕事の関係でさまざまな高齢者とペットの問題に出会うことがよくあり日々、課題を感じています。高齢者にとって、ペットとの暮らしは本当に生きる力になるわけですよ。私もまた歳をとったとしてもぎりぎりまでペットと一緒にいたいと思うでしょう。ただ、飼い主が亡くなったり、施設に入所したりして飼育が困難になったときにどうするのか、という問題はつねに考えておかなくてはいけません。私たちのもとにも高齢の飼い主さんがさまざまな理由で飼えなくなって、引き取らせていただいた子たちがたくさんいます。

小森さん

長く活動をつづけたいからこそ手の届く範囲で

– 最後に、今後の活動の目標を教えてください

小森さん:ゆくゆくはキャリアの猫たちを中心に活動していきたいと思っています。余裕をもって活動ができるよう保護する頭数を20匹以下にまで減らして、シェルターを行き場のない猫たちが心安らかに過ごせる終の住処としていきたいのです。

私たちは連絡先を一般には公開していません。また、法人化もしていないので、地域の方や行政から相談されることがあまりない状況です。本当はもっと地域に密着して活動した方がいいとは思いますが、そこは大きな保護猫団体さんにお任せして、私たちはサポート役としてできる範囲で活動したいと思います。長く活動をつづけるためにも、いろいろなことに手を出してどれも中途半端になってしまうより、自分の手の届く範囲をしっかりとやっていきたいのです。

【取材対象者情報】

業種動物福祉
事業所名にゃんこ邸
担当者名小森 由美子
所在地福岡県八女市
連絡先SNSのDMからお問い合わせください。
SNShttps://www.instagram.com/yumiko.408/

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