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動物福祉

猫と地域のより良い関係づくりを模索する保護猫団体|一般社団法人リアン|福岡県筑後市

猫の殺処分数は年間9,472頭。(出典元:環境省「令和4年度 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」)これに交通事故や虐待死などを含めると、不幸な死をとげた猫たちは年間何頭になるだろうか。このような悲しい現実に目を背けることなく日々、猫たちを救うべく奮闘する保護猫団体、個人ボランティアは全国各地に存在する。今回は、福岡県筑後市で地域との共存を視野に入れて保護猫活動に取り組む一般社団法人リアンの鶴さんと川野さんに、これまでの活動の歩みから今後の展望までを伺った。

目の前の猫たちを助けたい、ただその想いからだった

– 団体を立ち上げたきっかを教えていただけますか?

鶴さん:保護猫活動自体は団体を立ち上げる前から、それぞれが個人ではじめていました。個人で飼い主のいない猫を保護し、知り合いづてやSNSで募集をかけるなどして里親さんを探していたんです。保護猫活動をつづけるなかで自然と顔を合わせる機会があり、「(個人では)時間も、お金も限界があるよね」という話から今の保護猫団体リアンを立ち上げることになりました。

川野さん:ただ、当時の私たちは保護猫活動の正しい知識がまったくありませんでした。相談いただいていざ猫を捕獲しようにも、やり方がわからなくて……。地域猫サポーターに登録しているベテランボランティアさんをお呼びして、捕獲のイロハを教わるところからはじめました。外にいる猫を触ることすらできない人たちの集まりでしたから、最初は怒られながら捕獲していましたよ。(笑)

– 4年目とのことですが、設立当初とくに大変だったことは何ですか?

川野さん:お金の立て替えが一番大変でした。最初は寄付が一切なかったので、日々の餌代から医療費、シェルターの光熱費まですべて手出しでまかなっていたんです。日々、貯金を切り崩していて、つねに不安だったのを覚えています。

鶴さん:あとは人手でしょう。私たちは最初3人でしたから毎日朝晩、猫たちのお世話をしないといけないなかで、とにかく人手が足りなかった。しだいに身体だけでなく心まで疲れてきて本当にきつかった。見てみぬふりができるのであれば、どれだけ楽だろう、と思ったこともあります。でも、私たちが活動をやめるとどれだけの猫たちが苦しむのか、死ぬことになるのかがわかるからやめられませんでした。

– 普段、どのように猫たちを保護しているのですか?

川野さん:主に保健所からの引き出しと、地域の人たちからの相談です。保健所にいる子は命の期限があるので、すぐさまお迎えに行きます。地域の人たちからの相談では、その猫が怪我をしているとか、餌をもらえているのかとか電話で状況をお聞きして、保護するのか、それとも治療してもとの場所に返すのかを判断します。

でも、電話口から相手の切羽詰まった感情が伝わってくるので、断りづらいことも多くて……。設立当初13頭だったのが、気づいたら100頭にまで増えていました。(笑)

鶴さん:ただ、私たちのシェルターにも受け入れられる限界があります。気持ちとしてはすべての猫たちを助けたいのですが、私たちが潰れてしまうようなことがあると今、ここにいる子たちまで共倒れになってしまい本末転倒です。そのときの状況によっては、保護をお断りせざるをえないことはどうかご理解ください。

地域の理解こそが活動をつづけるうえで欠かせない

– 当初はお金と人手が足りなかったとのことですが、今はどうですか?

鶴さん:変わらないです。年々、規模を拡大していまして、今はつねに100頭ほどの猫たちを保護しています。100頭の猫たちをお世話するには月30万円から多いときで50万円かかります。令和5年度の支出は400万円を超えました。ほとんどが医療費です。

ありがたいことに行政から一部支援をいただいてはいますが、シェルターの運営費にはどうしても足りません。だからといって手出しをつづけるにも限界があります。100頭の猫たちが安心して暮らせる環境を維持するためにも皆様にご寄付を、物資のご支援をお願いするしかないのが現状です。

川野さん:寄付をお願いするにも難しいところがあります。例えば、私たちが猫を保護するときには、相談いただいた方から初期にかかる医療費の一部をいただくようにしているのですが、お気持ちだけでもいただけますか、とお願いすると「えっ!お金かかるの?」と驚かれることが珍しくないのです。

私たち保護猫団体には資金も、人手も十分にあって「相談したらいつでも保護してくれる」と勘違いされている方が多いのでしょう。私たちは過酷な環境で生きる猫たちを、この瞬間にも命の危険にさらされている猫たちをただ助けたい一心で集まった普通の人にすぎません。

– もし保護した猫の譲渡先が決まらなかったらどうなるのですか?

鶴さん:今、家猫の平均寿命は14、5歳です。長く生きる子だと20歳を超えることもあります。すぐに譲渡先が決まればいいのですが、決まらなければ私たちはその子の一生を見守らないといけません。保護した猫はFIP(猫伝染性腹膜炎)やパルボウイルスなど致死率の高い病気をもっていることが珍しくなく、その場合は医療費も相当な額がかかります。

私たちのような保護猫団体はつねに資金繰りに、人手不足に困っています。そのことを相談に来られる方にはどうかご理解いただき、もしよければこころよく温かなご支援をいただけるとありがたいです。

– 活動をつづけるには、地域の理解が欠かせないわけですね?

川野さん:その通りです。飼い主のいない猫たちがどのような暮らしをしているのか、私たち保護猫団体が日々どのように活動しているのかを知っていただければ、地域の人たちとも分かり合えて、社会が少しずつ優しくなっていくはずです。そのために、私たちは地域猫活動の一環として相談いただいたお宅や、その地域をまわってお話しをするようにしています。

鶴さん:活動をつづけていると、ときには心ない言葉をかけられることもあります。その一方で、地域から飼い主のいない猫たちが減ってくると「あなたたちが対応してくれたおかげだよ」と応援してくださる方も多くいらっしゃいます。もちろん、そこまでの道のりは遠いのですけれど、人と猫とのより良い関係づくりのために地道につづけていくしかありません。

人との温かなつながりに感謝しながら活動する日々

– 今回、熊本の団体さんからシェルターをゆずり受けたとか?

鶴さん:今年の猛暑でシェルターのエアコンが効かなくて、改修するにも猫を移動させる場所がなく新しくコンテナを探していました。そんなときに、ある熊本の団体さんがお引っ越しをせざるをえなくなったとかで、運べないコンテナがあると聞き、私たちが手を上げたんです。そして、いろいろな方にご協力いただき、私たちのもとまで何とか運ぶことができました。

驚いたのが、運送業者さんから送られてきた請求書が当初の見積もりの半額以下だったことです。計算を間違えているのかと確認すると、明細書に「保護ねこの餌代として割引」と書かれていて、泣きましたよ。号泣です。

川野さん:その後、これまで応援してくださっていた大工さんにご依頼して、バタバタと工事を手配いただき先日、ようやく新シェルターが完成しました。ただ、本当に急なことで資金に余裕がなく、今はクラウドファンディングでご寄付を集めているところです。でも、皆様のご寄付のおかげで改装後の新コンテナはしっかりと断熱された環境で、クーラーの効きがよく、猫たちにとっても日々、お世話をするボランティアさんたちにとっても快適な空間となりました。

鶴さん:ボランティアさんには中学生や高校生もいるのですが、大半は40代以上で、中には70代の方もいます。旧シェルターは断熱がなく、クーラーがあまり効かない環境でしたから猫のお世話が本当に大変でした。無償で手伝ってくださっているわけですから今回、皆が少しでもお世話しやすい環境になってよかったです。

(左)鶴さん (右)川野さん

猫だけでなく、地域の人たちの居場所にもなりたい

– 最後に、保護猫団体としての今後の展望を教えてください。

鶴さん:私たちリアンは猫たちの保護シェルターであると同時に、地域の人たちの居場所のひとつにもなれたらなと思っています。例えば、子どもたち。さまざまな事情で学校にはいけないけれど、猫たちに会いにだったら、お世話をしにだったら外に出てこられる、そのような場所にしていきたいのです。

川野さん:ただ、地域の人たちを受け入れるにあたっては、猫との正しい接し方であったり、状態によってのお世話の違いであったりをしっかりと伝える必要があります。もしかすると私たちの負担が増えるかもしれません。それでも、子どもたちが猫と遊びに来てくれるだけでも和みますし、私たちと関わることで将来、動物たちと関わる道に進みたい子が出てきてくれたらすごくうれしいです。

もちろん、子どもたちだけでなく、猫が好きで、でも何かの事情で自宅では飼えない、そのような方もボランティアさんとして歓迎しています。自分にできる範囲のことでいいです。ここに来れば猫に会える、心が晴れる、毎日の活力になる、そのような場所にしていきたいと思いますのでどうか皆様、温かく見守っていてください。

【取材対象者情報】

業種動物福祉
事業所名一般社団法人リアン
担当者名川野 和美
所在地福岡県筑後市
連絡先090-2852-1359
サイトhttps://lien-chikugo.stores.jp/
SNShttps://www.instagram.com/lien.chikugo/

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