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宿泊

次の100年も“なくならない”約束 未来へ紡いでいく歴史と想い|柳川藩主立花邸 御花|福岡県柳川市

福岡県柳川市にある柳川藩主立花邸 御花は、大名の末裔が営む日本で唯一の宿泊できる国指定名勝である。約100畳の大広間や迎賓館西洋館、日本庭園松濤園(しょうとうえん)などの近代和風建築は、すべて1910年(明治43年)に整備されたもので、およそ400年前に立花宗茂が柳川城主となって以来、立花家はここ柳川とともに歴史を紡いできた。戦後の荒波を超えて、今なお未来へと歩みをつづける料亭旅館 御花。今回は、18代立花千月香さんに次の100年に向けた想いを伺った。

家族の家から料亭旅館へ

– 料亭旅館 御花について教えてください

立花さん:料亭旅館 御花はもともと立花家の自宅でした。第二次世界大戦後に華族制度が廃止になり、16代にあたる祖父母が家族を養うため、文化財である自宅を使って料亭旅館を営むことにしたのが料亭旅館 御花のはじまりです。今年で75周年を迎え、宿泊だけでなくお食事や結婚式、館内や歴史資料館の見学など毎年、多くの方々にご訪問いただいております。昔から変わらない景色のなか、縁側に座りゆっくりと日本庭園を眺めたり、大広間でお昼寝をしたり。お好きな場所で本を読むなど思い思いの時間を過ごせるのが料亭旅館 御花の魅力のひとつです。

– 文化財に宿泊ができるわけですね

立花さん:そうなんです。ただ以前は、旅館といえば温泉があるものと勘違いをされるお客さまが少なからずいらっしゃって、「温泉がなかった……」とがっかりされてしまうことがありました。私たちが一般的な旅館ではなくて、文化財(国指定名勝)であり、そこに宿泊する魅力というものをきちんと発信できていなかったことで、お客さまの求めるものとのミスマッチが起きていたのでしょう。料亭旅館 御花の魅力をきちんと発信するようにしてからは、歴史や文化財に興味を持ってくださるお客さまがたくさん来てくれるようになりました。

文化財に泊まれる唯一無二の体験

– 宿泊者ならではの魅力を教えてください

立花さん:宿泊のお客さまはお好きな時間に、自由に館内を見学いただけます。たとえば朝日の差し込む大広間にたたずんでみたり、日本庭園の池に映る月を眺めてみたり、宿泊しないと見られない景色がそこにはあるわけです。そして、川下りの舟上で朝食をとることもでき、観光客のいない貸切のような静かなお堀を堪能いただけます。

今年1月に宿泊施設がリニューアルし、さらに上質な環境で文化財に宿泊するという非日常体験を味わっていただけるようになりました。また、宿泊のお客さま向けに毎日館内ツアーを実施していまして、ツアーを通して料亭旅館 御花のこれまでの歴史と目指す未来をお伝えできるようにもなりました。

文化財を次世代へとつないでいくために

– 文化財を維持していくうえで重視していることはありますか

立花さん:文化財の維持管理にはとても費用がかかります。ただ維持するだけではダメで、これからも残していくためにはいかに活用するかが重要です。文化財は大人だけが楽しむ静かな場所、と思われがちですが、料亭旅館 御花では子どもたちにも大広間でご自宅のように過ごしてもらいたい。「(文化財だから)触っちゃダメ、騒いじゃダメ」ではなくて、「(文化財って)楽しい、また来たい」と子どもたちに思ってもらいたい。文化財を活用し、後世に残すためにも、身近なものに感じてもらうことは大切なことなのです。

それに子どものうちから本物に触れて、貴重なものを大切に扱う心を学ぶことはよい教育でもあると思います。子どものときに楽しかった場所には大人になってからまた行きたくなりますよね。私たちはお客さまと5年後、10年後、ときには世代をも超えてつづいていく関係となることが、文化財を守ることにつながるのだと信じています。

18代 立花 千月香さん

地域とともに100年後の未来へ 

– 立花家の地域に対する想いを教えてください

立花さん:立花家が400年もの間、柳川に住みつづけてこられたのは地域の皆さまのおかげです。幼いころから父に「柳川の人たちに、料亭旅館 御花が柳川にあってよかったね、と思われなければやっている意味はない」と何度も言われてきました。

立花家と地域との関わりでいいますと100年ほど前に侍の時代が終わり、14代当主の寛治公は、農業での地域振興を見据えて日本初の民営農事試験場を柳川市に設立しました。あらゆる品種の野菜や果物の苗を海外から買い集め、地域に適した作物を研究したのです。その後、祖父は柳川のお堀を船で観光する川下り観光を、父はさげもんという柳川特有のひな飾りを使ったさげもん祭りをはじめるなど、柳川の地域振興に貢献してきたわけです。今後も地域の皆さまに料亭旅館 御花があることを誇りに思ってもらえるよう、いかにして地域に恩返しができるのかを考えつづけてまいります。

– 今後の目標はありますか

立花さん:私たちはお客さまと御花はなくなりませんと約束してきました。それは従業員に対しての約束でもあります。なくならないこと、継続していくことはとても大変なことですが、約束することで初めて100年後の未来が見えてくるわけです。私たちはよく「100年後はこうなっていたいね」と当たり前のように100年後の話をします。従業員皆で100年後という同じ未来を見ているんです。一年を大切にし、それを積み重ねた先に100年後の未来があり、そこに料亭旅館 御花があるためには今何をするべきかを日々、皆で考えています。

背負っているものは大きいですけれど、大きいからこそ頑張れる。ご先祖さまから受け取ったこのバトンを次の世代に、100年後の未来に渡すことが私たちの使命です。

【取材対象者情報】

業種宿泊
事業所名柳川藩主立花邸 御花
担当者名18代 立花 千月香
所在地〒832-0069
福岡県柳川市新外町1
連絡先0120-336-092
HPhttps://ohana.co.jp/
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