かつて馬は狩猟や農耕などあらゆる場面で人とともにあった、暮らしに欠かせない動物である。しかし、今や馬といえば動物園や牧場、乗馬クラブなど限られた場所でしか見ること、触れることはできない、どこか遠い存在。かくいう私も「家族との出かけ先として牧場に立ち寄ったとき、その一角にいてニンジンをあげることがある動物」というくらいの認識であった。
それが今回(2025年11月29日)、のぞえ牧場 ギャロップで開催された「馬の多様な利活用を推進する講習会 〜ホースセラピー実践にむけて〜」で東京農業大学の川嶋准教授の講演をお聞きして、その可能性の広がりを感じたので共有させてほしい。

講演のテーマは「ホースセラピーとは何か」。それは”馬”という人と深く関われる動物を活用して、教育や療法などにつなげることを目的とした活動で、広義では「アニマルセラピー」とも呼ばれる。世間には犬や猫、そのほかさまざまな動物を活用したアニマルセラピーも存在しているわけだが、川嶋准教授によるととくに馬がいいとのことだ。
それはなぜなのか……草食動物である馬はただ安全な場所にいられて、草をはむことさえできればそれだけで幸せな生き物で、ゆえに人に圧をかけることがない。また、臆病で好奇心が強いがゆえに馬は変化に敏感で、それはつまり人の些細な心身の変化もまた敏感に感じ取れるのだという。

確かに、高齢者や認知症、うつ病、依存症、ひきこもりなどの社会で生きづらさを抱えている方々にとって、ささいな圧が(それこそ犬が人に向ける、ときに激し目の愛情表現でさえ)大きな負担になりえる。馬のように自然と寄り添うことができる存在は心地いいのだろう。
それに、馬のお世話(ともに生活)をすることで生活リズムの改善にもつながるであろうし、馬に乗れるようになれれば自信や誇りをもつことにもつながる。さらには、馬を介することで、家族や友だち、同僚など他者と関わるきっかけになることもあろう。

そうした「できること」がひとつ、またひとつと増えていくことで、社会で生きづらさを抱えている方々は自分なりの「生きがい」や「居場所」をつくることができるようになるのだとか。ホースセラピーとは誰もがWell-being(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあり、幸福を感じている状態)に生きられる社会の実現につながる活動というわけだ。
そう”誰もが”。社会で生きづらさを抱えている方々に限らず、馬との触れ合いから得られるものなのだ。教育だとか、療法だとか、難しく考える必要はない。出かけ先の動物園や牧場にいる馬にニンジンをあげてみる、乗馬クラブで趣味として乗馬を楽しむ、自分なりの馬との心地のいい距離感で触れ合えばいいのだから。
執筆:堀本一徳(FCP編集長)



